Foncebadón → Ponferrada 26.3㎞ あと209.1㎞

まだ暗いうち、崩れかけた鐘楼に見守られてフォンセバドンを後にしました。

イラゴ峠には「鉄の十字架」がたっています。その根元には巡礼者が積み上げた小石が山となっています。先史時代からの神聖な地だそうで、巡礼者は故郷から持ってきた石をここに残していったそうです。何かが書き込まれた石、誰かの写真、アクセサリーやリボン……。古今東西の巡礼者それぞれの思いが切実にこもった品がここに託されていました。

イラゴ峠。1500mを超えるこの難所、この十字架にたどり着いた昔の巡礼者の思いはどのようなものだったでしょう。いえ、昔ばかりじゃなく今でも。

マンハリンManjarinにたどり着きました。ここには「トマスのアルベルゲ」というのがあります。トマスさんが巡礼者のために、たった一人で廃村にアルベルゲ(巡礼宿)を作ったのです。霧の日には鐘を鳴らして巡礼者を導いたといいます。シャワーもないここに、泊まりたいと思っていました。けれど「休業中」の情報を得て、手前のフォンセバドンに泊まることにしたのです。フォンセバドンから4km余、この先7km近く村のないこの道、休業を知らずにあてにしていたらたいへんなことになっていました。あらためてフォンセバドンの古いアルベルゲの、そしてトマスさんの、「この場所で巡礼者を守る」という決意が伝わってきます。休業中のトマスさんのアルベルゲには巡礼者が残しただろうたくさんの装飾があって、いかに愛されていたかがわかります。

道はどこまでも天上を行きます。まばゆいばかりのエニシダに覆われた山々が下に見え、ときおり放牧地から牛の声が聞こえます。道端には「ヒース」が現れ始めました。「エリカ」と言った方がわかりやすいでしょうか。「ヒース」とは、エリカをはじめ乾燥した荒地に咲く花の総称だそうです。子どもの頃読んだ海外の児童文学で、主人公の女の子がヒースの咲く荒野に冒険に踏み出す場面があり、それから「ヒース」に憧れ想像していました。そして想像通りでした。確かに土地は荒れています。

山道も、その周囲も、スレート状の石に覆われています。そこにエリカがへばりつくように咲いています。そしてようやくたどり着いたアセボAceboの村の家や教会は、そのスレートをうまく組み合わせたものが多く見られました。ここも「そこにあるもの」で建物を造ります。フォンセバドンを出て11km、4時間の後にやっと現れた、ヒトの住む村です。

ごつごつの山道をひたすら行くとモリナセカMolinaseca。美しい「巡礼者の橋」の向こうに、1705年に造られたアングスティアス礼拝堂が迎えてくれます。昼食をとって英気を養ったものの、この先ポンフェラーダまでの8㎞の長かったこと。

ポンフェラーダは古くから鉄の採掘で栄えたという町。そして、どどーんとお城がそびえていてびっくりしました。12世紀のテンプル騎士団の城だそう。中は見学することができて、投石器などがそのまま置いてありました。

美しい教会の鐘の音に、往時に思いを馳せる町でした。