Triacastela → Sarria   18.7km   4万1822歩 あと113.9km

前日の夜、同室のベルギーからのご夫婦から、「明日はどっちの道を行くの?」と聞かれました。ここからサリアへはふた手に分かれます。右は山上の見晴らしのいい道、左は川沿いの美しい道。うーん。どちらも捨てがたい。思えば毎日忙しく、行く先のコースをよく調べたり吟味する暇もありませんでした。だから、ベルギー夫妻の選んだ「左の道」に従うことにします。左の道のサモスSamosという街には、大きな大きな修道院があるそう。そして10時と11時のガイドツアーに乗らないと内部は見られないということも教えてくれました。彼らは夫婦で少しずつ、4年かけてこの巡礼を果たしていて、これで最後の旅になるそうです。

見上げるような木々の下、なにやら体によさそうな湿った森の空気をいっぱいに浴びながら、小さな山村を縫っていきます。バルのひとつもありません。

曲がりくねった山道を9km、やっと眼下に見えてきたのは、巨大な、そしてあまりにも美しい修道院。ガイドツアーにも間に合いました。20世紀半ばに焼失し、再建されたものだそうですが、歴史の重みがちゃんと感じられます。今も10代から100歳近い修道士さんたちが、暮らしを共にして修行に励んでいます。

あちこちで修道院を見学しましたが、どこもその壮大さ、美しさは息を飲むようでした。曲線が素晴らしい回廊があり、神聖な彫刻や絵が華やかで、厳かな教会も内部にあります。もっともっと、キリスト教のことを勉強してくればよかったなあと思いました。

ここで、自分に、大きなチョコレートと銀の指輪を買いました。ごついその指輪にはULUREIAと書かれています。後になって知りましたが、これはラテン語で「前へ進め」という意味だそう。巡礼路では「Buen Camino」と同じくらい言い交わされているとか。ULUREIAと声をかける人にはついぞ出会いませんでしたが、「前へ進め」とは、まさに自分を鼓舞するのにいい、力強い言葉です。

さてさて、サモスを過ぎると、相変わらずバルのひとつもありません。腹ぺことトイレがそろそろ限界だなあと思った頃、まさに天の助け。誰もいない、ちょっと素敵な民家の前庭に、数種類の飲み物と軽食、果物が置かれてあって、テーブルといすが用意されています。なんとワインまで置かれています。入り口には8か国語で「巡礼者の皆さまへのおもてなしです」と書かれています。「トイレはこっち」という張り紙まであります。涙が出るような心遣い。毎日新鮮な飲み物と食べ物を用意し、寄付の箱があったって、決して儲けようとしているわけじゃありません。通り過ぎた村々で、巡礼者は敬われ、大切にされてきました。それが厚い信仰のゆえかわかりませんが、こんな心遣いに触れることこそ、この巡礼の旅のありがたくうれしいところです。

おかげさまで元気を取り戻し、サリアへ。ここからサンティアゴ・デ・コンポステーラまで100キロ余。100km歩くとサンティアゴで「巡礼証明書」をもらえるから、サリアを出発点にする人も多いそうです。

この日の夕飯は、ガリシア州に来たら食べずに帰るわけにはいかない、プルポ・ア・ラ・フェイラ。プルポはタコ。いかにもタコっぽい名前。そしてスペイン料理は何を食べてもはずれがありません。