Villafranca del Bierzo → O'Cebreiro 28.9km

この日は2度目の荷物のトランスポートサービスをお願いすることにしました。目指すオ・セブレイロの峠まで約29km、しかも標高差は800m。巡礼路最後の難所だそうです。

川沿いに、素朴な山村をたどりながら進みます。

ルイテランRuitelán、そしてエレリアスHerreríasを過ぎると、本格的な上りの山道になります。周囲は深い森に覆われ、その木々の幹は一つ残らずもじゃもじゃの地衣類に覆われています。モスグリーンという色はまさにここからきているんだなとあらためて知らされます。

そして、村と村の往来に、なんと馬が現役で働いています。

これはフル装備を背負っていたらさぞきつかったでしょう。奮闘の結果、再び巡礼路は天上の道になりました。こんなところまで自転車が登ってくるのは驚きです。

ガリシア州に入ってあと一登りすると、オ・セブレイロ。苦労してたどり着いたここもまた、高原リゾートでした。車道が通り、小さな村ですが車で来た観光客でにぎわっています。ケルト文化が残るといわれ、独特の藁ぶき屋根のパヨサと呼ばれる伝統的な住居を見ることができます。

9世紀に建てられたというサンタ・マリア・ラ・レアル教会は、巡礼路で一番古いものです。夕食の前に、ミサに出かけました。

いつものように、最後に巡礼者だけが前に集められます。世界中から集まった人たちが、各国語で書かれた祈りの言葉を読み上げます。ひと言目を発する前から、感極まって喉を詰まらせる人もいました。この巡礼を始めてひと月、深い信仰を目の当たりにしてきました。

各国語の祈りが終わると、神父さんは袋から何かを取り出し、一人一人に手渡し始めました。隣にいた巡礼仲間は、それを手のひらに受け取り見たとたん、両手で包んでおしいただき、目を閉じて鼻をすすり始めました。

私の番です。これから巡礼に出かける方の楽しみのために何かは言わないけれど、小さくても心のこもったそれは、私の宝となりました。これから先、どんなことがあっても、これが私にこの日々を思い出させ、勇気を与え、導いてくれることでしょう。

ミサが終わり、教会の入り口付近でたたずんでいると、老婦人に声をかけられました。「一緒にキャンドルを灯さない? 私2ユーロコインを持っているの」。赤いキャンドルは1本1ユーロです。私はお言葉に甘えることにしました。キャンドルを1本ずつ持ち、聖杯のある部屋に入りました。ぶどう酒とパンがキリストの血肉になったという、1300年頃の奇跡を記念した聖杯です。

老婦人にならってキャンドルを灯し、亡き人に祈りを捧げました。「ここまで来たよ」。祈りを終えると彼女は私をそっとぎゅっと抱きしめ、「Buen Camino」と言ってくれました。とっても柔らかく、心が温かくなりました。ほんとに行きずりの人でしたが、ここまで来た巡礼者同士は、まぎれもない同志です。忘れられない夜になりました。

夕食は、もちろんカルド・ガジェゴを注文しました。ガリシア風のじゃがいものスープ。見た目はいまいちでも、ほっこり幸せの味です。